知床 2006 秋

PLACEText: Junya Hirosawa

4日目の朝を迎える。今日は少し遅め。でもホテル前の浜で夜明けを撮影。海から山まで何日でもその日の気分次第で朝を迎えられる場所なのだ。

朝食を車の中で済ませ、今日も岩尾別方面へ。昨日の夕方に出会ったプユニ岬裏の森をちょっと見てみる。日陰に大きな体が見える。双眼鏡でじっくり観察。昨日のクマだった。その先、昨日の早朝に見つけたクマの通り道でちょっと待ってみるが気配を感じないので移動。

岩尾別川に沿った道路の沿道には今日も朝早くから大勢のアマチュアカメラマンが集まっている。レンタカーや本州ナンバーの車など。大きなレンズが並んでいる。大勢が集まっている所は撮れてもみな同じような写真になってしまうし、付き合いが面倒なのでパス。車をゆっくり走らせ奥に向かう、数百メートル上流で、日陰になった岩がゴロゴロする河原に、同じ位大きな黒い固まりが動いている。

昨日に続き6頭目のクマだった。大きな岩をヨイコラショと登り、山の斜面にたどり着くとこちらとちらっと見て山の中に入っていった。やっぱり人間が沢山集まっている所はやだよね。自分だって家の近所に大勢のマスコミがいたらそっと裏口を通るし。

さてと、車を動かし数メートル先のカーブを曲がると目の前にまたも黒い巨体が!!3m程前をクマが横切っていった。これには違う意味でびっくり。数分間の感覚を置いてたて続きに2頭と遭遇するとは。クマは斜面をのぼりまた河原に降りようと顔を森から出した所でやっとピントがあった。

すると上から1BOXの車が一台、昨日のフジテレビの取材クルーだった。クマは森に引っ込んだ。「昨日から7頭目です!」驚きの声!「今のクマ、また出てきますよ!」と言って車をUターンさせ、朝日に輝く直線道路で取材クルーの車と相対する形で森から出てくるクマを待つ。数分後予想通り、森から出てきた。道路に出ると右見て左見て、それから横断。すごく人間的な動作!思わず顔が緩んでしまう。

川に出て水を飲み、河原をウロウロ、えさを探している。山に行くかと思ったらUターンしてまた正面に戻ってきた。川に入り、毛が光る。沢山シャッターを切らせてもらう。すると下流から小さなバンがやってきた。本州ナンバーのカメラマン。車からカメラを持って慌てて降りてきた。「車から降りるな〜!」ちょっと短めの300ミリのレンズを付けている。もっと大きく撮りたいのなか、クマに近づく。その近づき方も急な動作。まずい、と思った瞬間、川の中にいたクマが驚いて立ち上がった。確認動作だ。

近づき方にも動物を脅かせない近づき方があるのに、分かっていない。クマが立ち去ったあと、テレビカメラのインタビューを受けていたが初めて撮ったそうだ。やっぱり、知床の入り口でゲートを付けて、ちゃんとしてレクチャーを受けさせるべきだと思う。アラスカの国立公園式に車から降りないよう規制をするなど、必要だと思う。クマが道路に現れてから10分ほど、山の斜面を登り始め姿を消した。

クマが去った山の斜面を見ながらちょっと休憩と画像チェック、まずまずというところ。河原に出て日だまりで暖まる。朝は結構冷えていた。30分後、川の上流のホテルに納品に行ってきた地元のおばちゃんの軽自動車が止まった。「クマ、出てくるのを待っているの?そこにいたわよ」と教えてくれた。

カーブを曲がるとまたクマさんが歩いていた。と、上から一台の車が急ブレーキ、環境省から委託を受けクマの調査などを行っている知床財団のパトロールの車だ。スタッフが降りてきた、追い払いを始めた。あまりに道路に近づきすぎているのがその理由。といっても道路が生活圏の中にあるからしょうがないのだが。クマをよく知らない観光客がきて大騒ぎしたたら大変だという理由もある。

なんとまあ、この先のホテルから自転車で川に沿って下るコースを紹介している記事もある。カーブを曲がるとクマがいるかもしれないのでスピードに注意してくださいと但し書きがある。わずか一時間弱で3頭もクマがあらわれる場所であることを無視しているような事例がある。それともそんな現れるのは滅多にない事なのか?ともあれ、追い払いにあっているクマは、不思議そうな顔をしている。

もっとも追われるような悪さをしている訳ではないし、迷惑をかけている訳ではない。これは人間に置き換えたら大変なことです。なかなか道路際から離れず森に戻らない(森の中にある道路ですが)。しまいには爆竹2発を投げつけられる事に。

「パーン」谷間に轟音が響いた。びっくりして数歩駆け出すクマ、でもすぐに立ち止まる。全然効果がないのか。このままだと、ゴム弾銃を手にしてスタッフが来てお尻にゴム弾を当てられてお仕置きされてしまう。森に戻れよ…。少ししてようやく奥に入っていった。これが、知床の現実なのだ。「クマとの共存」と声高かに叫ばれているがなんだか人間の勝手なような気がした。クマに学習させる、道路際に出てこないように爆竹やゴム弾をうつ、これは人間の傲慢さではないのか、クマより人間を学習させるべきではないのか?

学習したくない人はゲートから先をご遠慮いただく。その方が人間とクマ双方に取って安全なのではないかと思う。クマより人間が賢いというのであれば。

この出来事あと、なんだか拍子抜けしてしまった。クマたちがなんだか可哀想だった。「なにするんだよ〜、何もしてないよ〜」と言っているかのような表情が頭から離れなかった。

このあと、森で少し撮影をしたあと、知床を後にした。いろいろなことを考えさせられた4日間だった。帰り道、上空を南に向かって飛ぶ雁の群れを見つけた。車を飛び、姿を見送る。もう雪の季節はそこまで来ているのだ。

Text: Junya Hirosawa
Photos: Junya Hirosawa

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