知床 2006 秋

PLACEText: Junya Hirosawa

ウトロに戻り、遅い朝食。海はうねりも波も高い。中の上位の波の高さだそうだ。イルカホテルに移動し、オーナーといろいろな話をする事ができた。降ってわいたような自然遺産登録、港に突然建設がはじまった高層ホテル、目の前の浜の沖合にできた立った一つの防波堤のおかげで海藻が全部駄目になった事など・・・・自然遺産になっても全然世界に誇れる受け入れ態勢が全くできていない、外国の視察の方々にほんとは見せたくないと、ほんとにその通りだと思った。

二日間が知床をまわり、観光客の様子を見ていた現状が少し分かった。昼近くになり、山が晴れて来た。知床連山の山頂が少し白くなっていた。簡単に昼食を済まし、昨日の絶景ポイントに向かった。

晴れ上がった雪を冠った羅臼岳、雪の白、ハイマツのグリーン、黄葉の斜面と高さによって色が違う山腹はきれいなコントラストを描いている。

昨日、よく見なかった崖の近くの草がなく土がでている部分をよく見てみると、大きな足跡と小さな足跡が並んでついている、そう親子グマの足跡だ。白い頭骸骨もある、若いシカの頭だ。

辺りをよく調べると草地に道が付いている、人間の踏み跡ではない。確実に昨日から今日にかけてクマが通った跡。昨日は気がつかなかった。背後は断崖。逃げ場はない。撮影をさっと済ませ、斜面を離れ草地に真ん中に移動した。三脚にカメラを付け、数枚羅臼岳を撮影したときだった。左側斜め後ろに気配を感じた。振り返る。50mほど先、森の端から黒い大きな姿がこちらを見下ろしている。その後ろにピョンピョン飛び跳ている黒い小さな動物。親子クマ・・草原にいるのは、人独り、クマ2頭。目が合って、1、2、3、母グマはくるりとUターンした。大きな体で走り出し森に向かう、慌てて子グマが跡を追いかける。意外に早い早い!

海からの風が駆け抜けた。あっそうか、クマは風上、こちらは風下。森の中からからクマは、草原を見下ろす斜面に出て初めてこちらに気づいたのか。母グマは3秒でこちらを認識してくれてよかった。ほんの数秒間の出来事だった。クマが向かった森に注意しながらその場を後にした。

車に戻り、飲み物を口にする。ホッとした。でも怖かったという気持ちではなく、なにか満足した気持ちだった。あの瞬間、あの空間をクマたちと一緒に入れた。周りに誰もいない。昨年知床でクマ4頭と会った。そのあと、アラスカで3頭を見た。今朝2頭とあった。でもどのケースも、車の中だったり周りに人がいたりした。

クマは人間を襲う怖い動物。そんなイメージを多くの人が持っているのはどうしてだろう。そんなことを考えた。写真こそ撮る事ができなかったがあの数秒間のシーンは脳裏に焼き付いていた。今でもはっきりと思い出す事ができる。貴重な出会いだった。

日が傾き始めた。秋の落日はあっという間だ。海岸部へ向かう。坂を下って、夕陽の名所プユニ岬まだあと数十mの所で道路のすぐ横にある黒い大きな固まりが目に入った。えっ、まさかこんな所に?!

車は沢山通りすぎているのにだれも気づかない。大きなクマがこちらに背中を向けて座っている。夕陽が当たり黒い体が赤くなっている。レンズを向ける、ゆっくりとクマが振り返った。目が合う。

凄みさえ感じる大きな背中とお尻、それとは対照的な人間的な顔をしている。「な〜に?どうしたのさ」と言わんばかりの表情。車が数台止まり始めた。車から降り出す人も出てきた。車から降りるな!!と叫びたかった。

クマはゆっくりと立ち上がり、やれやれ人が多くなってきたな〜とこちらを見ながらゆっくりゆっくり森の奥へ向かった。

でもそちら、プユニ岬のすぐ後ろの森でしょう!!プユニ岬には、夕陽を見に来た人が沢山集まっている。夕陽を撮りながら後ろの森を確認する。クマさん、姿を現すなよ、集まっている人が騒ぐからな。と心の中で語りかける。まさかすぐ後ろにクマがいるなんてだれも想像してない。落日、今日は雲の形もいい。雲がある空の夕陽もドラマチックだ。

背後の森からシカの群れが出てきた。立派な角を持つ筋肉隆々の雄シカ一頭に、数頭の無雌、繁殖期(発情期)に入っていた。夕陽に照らされシカも森も赤く染まった。

続きを読む ...

【ボランティア募集】翻訳・編集ライターを募集中です。詳細はメールでお問い合わせください。
カラードットインク
MoMA STORE