知床 2006 秋

PLACEText: Junya Hirosawa

3日目、午前5時、知床峠に向かう。少し起床時間が遅くなってしまった。昨日の雲は上がっていたが、峠近くになると厚い雲に覆われた。雲が風でどんどん動いている。視界100m程の峠を過ぎると左側の谷間が真っ赤に燃えている。

厚い雲の間から朝日が射し込んでいる。谷間が真っ赤になっている。昨日の雨で葉っぱが飛んでしまったダケカンバのシェルエットが浮かび上がる。雲が動き刻々と色と形が変わっていく。背筋がゾクゾクする光景だ。撮りながら見返り坂まで下る。2日前と景色が全く違う。

自分の真上から根室海峡にかけて厚い雲がかかり、国後島の上は朝日が輝く。雲が動き、光が海峡に射し込み、海面が輝いた。

ふと後ろを振り返る、雲の切れ間から樹海に光が射し込んでいた。二日前にちょうどいい色になっていたダケカンバやナナカマドの葉っぱは昨日の雨と強風で全て飛んでしまっていた。山は一日で姿を変えていることに気づいた。恐らく今は雲に覆われている知床連山に雪が降っていることだろう。

ウトロ側に戻るこちらは穏やかな朝日に包まれ、道路際でシカが朝食中。岩尾別方面にゆっくりと道路を下る。何回目かのカーブを過ぎた時、前方の道路に動く黒い大きな固まりを発見した。ついに登場、森の王者、知床の主ヒグマだ。

のっしのっしと森を歩く、ちらっとこちらを見た時、目が合った。距離は10mもない。穏やかそうな目をしていると感じた。ヤマブドウのツルが巻き付いている大木の根元で止まった。樹をトントンと叩きながら上を見上げて、ヤマブドウの品定め。ちょっと考えて、歩き出した。まだ早いのだろうか、のっしのっしと森の中に姿を消した。

クマが横切った道路の周りを見てみると、どうやらクマの横断道になっているようだ。人間の作った道路がクマの通り道を横切っているというべきだろう。ヤマブドウなどを撮影していると昨日同宿だった方と会って、さっきクマ見たよと道路際で話をしている、道路のノリ面の上方で、「パキッ」と枝が折れる音がした。木々の間から黒い固まりがこちらを見ている。少し小さな若グマだ!

さっきのクマの登場から50分後のことだった。クマはこちらをチラチラみながら、斜面を右方向へ。向かう方向はさっきクマが道路を横切ったところ、やはり通り道に向かっている。望遠レンズに交換しゆっくりと後を追う。すると後ろからテレビカメラをかついだ3人のテレビ局クルーが近づいてきた。

クマの動きが止まった。こちらを見ている、やはり大勢の人間は嫌なのだろうか。観察されている。きっとこのまま行って道路を横断するかどうか考えているのか。テレビカメラクルーにクマの通り道の事を話し、ちょっと下がり道を開けるようにした。すると再び動きだした若グマは予想通り、道路を横切り、斜面下の森の中に消えた。見つけてから7分間の出来事だった。

テレビカメラクルーのインタビューを少し受ける。フジテレビだった。夕方のニュース番組だった。クマを追っているとのことだった。

続きを読む ...

【ボランティア募集】翻訳・編集ライターを募集中です。詳細はメールでお問い合わせください。
スティーヴン・チータム
MoMA STORE