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知床 2006 秋

PLACEText: Junya Hirosawa

太陽が出ないので、見返り坂まで移動し5時54分、雲間から太陽がその姿を現した。その光はあたりをうっすらと赤く染める。眼下の樹海をゆっくりと見回す、この辺りはまだダケカンバの黄色の葉っぱが樹に付いているが少し高い所の樹はすでに葉っぱはない。赤く紅葉したナナカマド、広葉樹の木々の中にトドマツ針葉樹がすっと立っている。あと数日で知床峠は凍結の恐れがあるため夜間通行止めの規制が入る。そうなると日の出の時間に入る事はできなくなる。短い秋の貴重な瞬間だ。

峠に戻りゆっくりと鹿の群れや紅葉の進み具合をチェックしながらウトロ市街に戻った。海はうねりが残り午前中の知床を海から見る遊覧船は欠航の連絡が入っていた。朝食後予定を変更し、ウトロに近い森に入る事にした。鹿道をたどり森に入り込むと紅葉と落葉で明るくなっている。

昨年夏に同じ場所に来たときはうっそうとしていた。ミズナラの木の下には大きなドングリが沢山落ちている。今年は豊作とのこと。ドングリは冬眠前のクマの貴重な餌。さっそくクマの落とし物を発見。おっと、まだ柔らかいぞ!

クマの餌は8割が植物、サケや鹿など肉はほんのわずか、でもクマは人間を襲う肉食獣と思っている人が沢山いる。ちょっと迷惑な話。実は今回8頭ものクマたちと出会う事になるのだが、体が大きな恥ずかしがり屋の森の住人なのだ。

日本の森で、どこかで木の陰からクマさんが見ているような気がする、そんな想像ができる所はここしかないと思う。貴重な体験ができ場所なのだ。でも森の中でばったりとクマと会うと向こうもびっくりしてしまう。それを避けるために、人間が森にお邪魔していますよ、と知らせる事が大事など、他にもいくつか約束事もあるし、クマの生態をよく知っておく事も大事。というわけで、クマの事をしっている人と一緒に森に入ってください。

気持ちのいい落葉の林床を踏みしめ、苔むした倒木のところで森の空気を吸い込む。この樹はいつ倒れたのだろうか。もう倒木の上に赤ちゃんトドマツが何本も生えている。倒木更新の現場だ。(倒木や根株を親木としてその上で発芽して稚樹が育つ事、適度な湿り気と養分に恵まれ厳しい環境下では成長に格好の場所であり、森の樹木の世代交代が行われる)それは何十年という森のサイクルの一部でしかない。そう知床の森には人間の世界には時間が存在している。

午後からウトロ港から海岸線を巡る遊覧船に乗ることに。夏の知床では大きな観光船と小さなクルーザの二つの遊覧船がある。もちろんお勧めはクルーザータイプなのだが、残念ながら数社ある中から選ばなければならない。お勧めはゴジラ岩観光。冬に写真撮影の船を出すくらいなので、ツボを知っていて、奇石や滝やクマをじっくり見せてくれます。クマウォチング船なる航路もあります。

今回はその航路が欠航しているので隣のクルーズ船を予約したのが外れクジを引いてしまった。海が荒れているのを理由に奇石や滝の前で停まらず写真をろくに撮れず。おまけに写真を撮ろうと思うと、船のマストやらワイヤーがファインダー内に入ってきて、移動しようものにも動くスペース無しでいい事無しでした。約一時間後消化不良のまま陸に上がりました。あっ、船に乗る時は夏でも手袋や帽子が必要です。もちろん風を通さない上着も。

気を取り直し夕陽の撮影ポイントを探し始めることに。世界自然遺産の入口、幌別川でサケを撮影しながら夕陽を待つという形に。河口にはサケが集まり、波が寄せては返す際に何匹かが浅瀬に取り残される、アップでシャッターを切る、目に最後の生命力が見えた。既に産卵を終えたホッチャレ(鮭の死骸)が浜に流れ着いていた・・・日は傾き真っ赤な夕陽がオホーツクの海に沈み始めた。こうなるともう言葉はいらない、ドラマチックな日没となった。

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