ニーブス・ブックス

PLACEText: Nem Kienzle

雑誌「zoo」で働いているとき、ベンジャミンはクリス・ヨハンソンのジンと出会い、これが自分でジンを作るきっかけとなった。もともとジンは1930年代のアマチュア出版から発達し、70年代後半のパンク全盛期に再復活。それからというもの、個人の作品を早く安く出版できるというDYI的要素が注目をあびてきた。ベンジャミンも費用とクオリティーを気にせず何人でも好きなアーティストを紹介できるところに魅力を感じているそうだ。又、ジンの手作り感と良心的な値段が、より多くの人とクリエイティビティを分かち合うことができる理由なのではないだろうか。


クリス・ヨハンソンのジン「I am glad for you that you exist」(ニーブス・ブックス出版)

はじめ、ベンジャミンはジン制作にあたって特にコンセプトはなく、ただ純粋にグラフィックを載せたかっただけだった。それが年を重ね、ニーブス・ブックスが軌道に乗り始めるにつれて、もっとアートを中心とした内容と厚みがある印刷物に時間をかけてみたいと思い始めた。以前は毎月3冊ジンを出版し、余った時間を本の制作に費やしていたが、最近はジンの出版数を減らし、マイク・ミルズの「Humans」のような薄型アートブックに専念している。この調子でいくと、百科事典を出版する日もそう遠くないかもしれない。


ステファン・マークス「I’m Starting to Feel Okay」(ニーブス・ブックス出版)

ついこのあいだチューリッヒのブティック「GRAND」が再オープンし、ニーブスから本を出したばかりのハンブルグのスケーター、ステファン・マークスの作品が店内に展示された。ベンジャミンはスイス人ヒップスターの人だかりにもまれながら、展示が設置されている店の奥の方でステファンの本「I’m Starting to Feel Okay」を売っていた。

お客が一通り去ると、ベンジャミンは近くの壁にもたれかかり、まるでダンスパーティーでよく見かけるシャイな男子生徒のように人だかりを外部から眺めていた。ここに誰か知っている人がいる?と聞くと、意外にもアーティスト以外見慣れない顔ばかりだという。この人はどちらかというと展示会で人と喋っているよりも、自分が選んだ作品に人々がどういう反応を示すか観察している方が好きなんだろうな、という印象を持った 。

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ニーブス・ブックス

ベンジャミンのオフィスで行なわれたライナス・ビルの「Piss down my back and tell me it’s raining」出版記念パーティーでも同じ様な感じだった。今回はライナスの知人や、わたしのようなニーブス・ブックスのファンが集っている場だったけれど、相変わらずベンジャミンはもの静かにカウンターの後ろに立って本を販売したり、たまにそれについてコメントを寄せていた。口数が少ないのは、自身が手がけるアーティストや本に重きを置いているからだろう。パーティからパーティに飛びまわる社交家タイプではないけれど、華やかなシーンから一歩離れ自分の仕事に誇りを持つ職人タイプだということがよく見てとれた。謙虚な性格とはうらはらに、ベンジャミンには絶えず世界中に向けて創造性を発するパワーがみなぎっている。

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