越後妻有アートトリエンナーレ 2006

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「瀬替え」とは、曲がった川の流れを真っすぐに変え、埋め立てて耕地にすること。国から洪水対策や田を増やすように煽られた越後妻有先代の人々は、たくさんの「瀬替え」を行って平地を切り開いてきた。川の底地は稲作にとって好条件となる。と、地元の人が教えてくれた。


松代エリア室野の「瀬替え」が行われた地で、磯辺行久氏は2000年に元の川の流れを黄色いポールで示し、2003年に元の水面位置を表した。今年はそのポールややぐらでダイナミックな円形舞台「農舞楽回廊」(2006)がつくられている。8月5日、舞台で行われるのは、世界各地の太鼓集団が演奏を繰り広げる「世界太鼓フェスティバル」だ。脇を流れる真っすぐにの川とあわせ、先代の厳しさ逞しさ、かつての人の栄えを見た。

松之山エリア内、川西エリアには今回足を運ぶことができなかった。松之山エリアのシンボルとなっているジョン・クルメリング(テキストデザイン・浅葉克己)(オランダ/日本)の迫力ある看板「ステップ・イン・プラン」(2003)作品を前に引き返す。第1回から人間の不在をテーマにして作品をつくってきたクリスチャン・ボルタンスキー+ジャン・カルマンが廃校を蘇らせるという「最後の教室」(2006)は、松之山エリアにある。注目のプロジェクト、3軒の空き家を会場に21人のいけばな作家が展示を行う小白倉の集落は川西エリアに。

十日町中心市街地、駅前通りを歩くと、「ちっとばか」「しゃっぽ」「ごっつぉ」など、思わず目を引くひらがなの幟が並んでいる。これも作品の1つ、地元独特の言葉が記された木沢和子氏の「じょんのび幟プロジェクト」(2006)。ちなみに、それぞれ「少し」「帽子」「ごちそう」の意味。

同じく十日町エリア中心市街地で、千葉大学栗生明研究室(有志)は、世界一の豪雪地帯の雪の高さを藁で示した空間「ユキノミチ」(2006)を作り上げている。8月10日、11日にはこの場所で「越後の衣服・キモノファッションショー」を開催。

グライズデール・アーツ(イギリス)によるオープニングイベント「七人の侍」(2006)は、開会式の夜に農舞台で行われた。イギリス中部の湖水地方を拠点に、地域再生プロジェクトに取り組むアーティスト達だ。ここでは住み込んで農作業を共にすることをアートとする。会場には制作を終えたアーティスト達や、サポーター、訪問者、地元の人たくさんの人が集まり、「こへび隊」が提供するフードやドリンクを楽しみながら開幕日を締めくくる。

パフォーマンスは7人それぞれがミュージックライブを行ったり、突然に白塗りで登場して踊ったりと内容はかなり謎であったが、彼らが滞在中に心触れ合わせてきた世代を超えた地元の人達が楽しそうにリズムに乗ってる姿には、その謎を批評しようなどという気も起こらない。動物から降りて来た声を聞くというパフォーマンスでは、『このトリエンナーレは成功しますか?』という問いに、鹿の助けを借りて出て来た答えはイエスだった。

最後に寄ったのは開会式の行われた十日町駅の側の「キナーレ」。ここにも様々な作品やプロジェクトが紹介されており、門や駐車場の白線までもがアートである。歩くことが好きなアーティスト鈴木えみ氏の「TSUMARING」(2006)は、妻有の道を歩きながら大地にひとつの大きな輪を描くというもの。『アーティストはここにいます。』と、その日に歩く場所が地図で示されていた。十日町の伝統「きもの」の要素をとりこんでデザインした久保美沙登氏の作品「Cross Cloth KT」(2006)は会場に美しく吊るされている他、「こへびTシャツ」としての販売もされている。

見きれもしなければ、書ききれもしない、たった2日間余りに出会ったうちの様々な風景や言葉を心に刻んで妻有を出る。
はっきり言って、妻有を回るためのアドバイスは無い。訪れれば体で感じることの全てを含めて「大地の芸術祭越後妻有トリエンナーレ2006」だ。滞在が長期であろうと短期であろうと、天気が晴れであろうと雨であろうと、一見の価値ある里山の風景。ただひたすら作品のスタンプを集めるために足早に駆け巡ろうと、1つのプロジェクトをじっくり楽しもうと、必ず触れられるものがあるはずだ。温泉に入りに、美味しい「へぎそば」を食べに、という訪問でもどこかで出会うアート達に暖かい地元の人達の姿。こんなことならじっくり計画してくればよかった、じっくり計画してきたけど結局まったく違う体験をした、そんな思いになることも含めて自由でいいのだと思う。ただし全ての情報が1つになったガイドブックを手に入れることは、妻有巡りをさらに豊かにするだろう。

越後妻有に置かれたアートではなく、越後妻有が生んだアート。多くのアーティスト達の作品に、越後妻有の大地との関わりの深さが表れていることには驚かされた。そのままの自然の里山の風景や生活が壊れるとの声や大反対は、もちろん起こったという。しかし地域活性化10年計画としても開始した「大地の芸術祭」は、6年後となった今年も、自然と人間とアートに気持ちのいい距離を保ち、コミュニケーションを誘発する肯定的な連鎖反応を起こしている気がする。この後もますます可能性を示していくだろう。すぐに私は『また行きたい』というよりも『また帰りたい』と感じた。

第三回 大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ2006
会期:2006年7月23日(日)〜9月10日(日) 50日間
会場:越後妻有2市町(新潟県十日町市、津南町)
パスポート:一般3,500円、大学・高校・65歳以上2,500円、小中学生800円
総作品数:約46の国と地域のアーティストによる337作品(第1・2回展恒久作品含む)
主催:大地の芸術祭実行委員会
TEL:025-757-2637
info@echigo-tsumari.jp
http://www.echigo-tsumari.jp

Text and photos: Yurie Hatano

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