トランスメディアーレ 2006

HAPPENINGText: Yoshito Maeoka

最後に、トランスメディアーレ 06 の関連企画として公開されていた、テスラに滞在中の遠藤拓己のオープンスタジオを訪れた時の感想を記しておく。

遠藤氏は現在、IPA未踏ソフトウェアプロジェクトにも認定されている「フォネティカ」というプロジェクトを進めている。このプロジェクトでは次の様な事を試みている。


オープンスタジオの風景

例えばフランス語には『サヴァ?』という言葉がある。これは『元気?』という意味で、いわば出会いの時の挨拶である。一方で日本語では「サバ」といえば魚介類の鯖を指す。氏自身、初めてフランスを訪れた際、待ち行く人々が『サヴァ?』『トレビアン!』と挨拶する様が奇妙に思えて仕方がなかったらしい。

氏はこれをヒントにこのシステムの構想を練った。もし、世界中の言葉の類似が視覚的に一望できればどうなるか。例えば、「サバ」は、ロシア語では「フクロウ」、インドネシアのタバ語では「丸太」を意味するらしい。これらの言葉が画面に現れ、有機的なネットワークを構成する様なイメージ。


Screen of Phonethica

『例えば「ミカ」という名前の女の子が、このシステムで自分の名前に似た言葉を探したとして、聞いた事もない様なアフリカの小部族が話す言葉で「太陽」というような意味だったとしたら?彼女は自分の部屋の端末から、広がるサバンナの中を駆け抜ける彼らの生活に思いを馳せるようになる… そのように、今までにはあり得なかったようなきっかけを、このシステムが与えるようになれば面白いのではないか。』遠藤氏はこう語る。

しかし開発に際して色々な問題に直面しているという。例えば、世界には6000種類の言語が存在すると言われるが、発音のみならず単語を統計的に収集できる言語はごく一握りだという。また、類似の語群をどのように見つけ出すかも一つの課題らしい。完全なる解決策としてではないが、最終的なデータベースはインターネットを利用する予定だそうだ。


インスタレーションスケッチとプロトタイプ

このスタジオでは、上記の様な構想を実現するソフトウェアとしての「フォネティカ」のデモンストレーションの他、マーティン・ライス、河内一泰の協力で「フォネティカ」のインスタレーションのプロトタイプを作成しており、その開発風景を公開していた。

実際のインスタレーションは巨大な円形の壁になる予定で、鑑賞者はその中心に立つ。すると様々な言葉がその言葉が話されている地域の方角から聞こえてくる、その様な装置になるらしい。ここでは、ライス氏主導の下、装置のプロトタイプが作成されていた。


インスタレーションのヒントとなった発声部分の模型

発生部分はきわめてアナログな方法で実現する。そもそもはエジソンの蓄音機の原理を応用した仕組みを利用している。これは、遠藤氏の昨今のメディアアートに対する物質感の欠乏から生まれた提案だった。音そのものを物質として認識できる喜び、そこに彼ならではの視点を感じた。また、構造についてはライス氏のスケッチを元に河内一泰氏が実現方法を検討していた。

遠藤氏の役割や作業の内容は一般的な開発案件のプロジェクト・リーダーとそう変わりない。しかし、提案するビジョン、実現されるであろう成果物が斬新でアーティスティックである。それゆえ、彼の様な存在もまたアーティストとして認知されている。あらためてアートという領域の広がりを感じた。

Transmediale 06
会期:2006年2月3日〜7日
会場:Haus der Kulturen der Welt, Berlin
https://www.transmediale.de

Text: Yoshito Maeoka
Photos: Yoshito Maeoka

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