トヨタ・ビッグエアー 2006

HAPPENINGText: Yurie Hatano

16名の選手は、まずクオリフィケーション・ラウンドを繰り広げる。2本の試技によるベストカウント方式。各エアの最高得点は合計300点満点だ。採点は、ジャッジによってエアの空中姿勢と着地姿勢を含んだ総合的な印象「オーバーオールインプレッション」で行われる。つまりただ高く飛べばいいというわけでもなければ、難易度だけが重要とも、美しさのみにフォーカスすればいいというわけでもない。そこに、それぞれのこだわりや個性、表現が現れるから面白く、それが空中の一瞬に全てをかけた“アート”でもあると思う理由である。

見る者にしてもそうだった。大きく言ってしまえばどの選手だろうと良かった。単純に素晴らしいジャンプが生まれることにどの選手かまわず興奮して大喝采を送り、失敗した選手がいればどの選手かまわず本気で悔しがる。選手にとって勝負の対象は実際他の選手であるが、実は自分の“作品”に対する至極の挑戦以外の何ものでもない気がした。
だからといって、勝ち進まなければその挑戦の舞台へのチャンスも消えてしまう。激戦の末、日本人選手3名を含む8名が、次のクォーターファイナル・ラウンドへの進出を決めた。一瞬であるが故の厳しさに各選手それぞれのドラマを残して。

ということは、この選手達は、今回ステージを飾ったライブアーティスト達とも、こだわりの表現で見るものを熱くするという共通点でがっちり繋がっている、と、2番目のライブアクトグループ、エルレガーデンのパフォーマンスに揺れながら思う。10フィートの衝撃とは一味違い、より落ち着いた空気でより来場者数を増やした会場を揺らすエルレガーデン。彼らのパフォーマンスがここにくることに、イベント全体の演出のウマさをも見た。

セミファイナル・ラウンドまで漕ぎつけた4名の選手が決定する頃には、会場はクライマックスに極めて近いところにあった。冬の盛大な花火の音は雪に吸い込まれ、逆にビジュアルを引き立てる。最初のラウンドを過ぎると、対戦はマン・オン・マン・トーナメント方式になり、選手は一対一での戦いで進んでいた。スイスの精密機械と呼ばれるニコラス・ミューラー、「マサカリエアー」を繰り出す谷口尊人、ずば抜けた才能を持つ昨年度の「キング・オブ・エア」イェロ・エッタラ、初参戦のカナダのスーパースター、トレバー・アンドリュー。すでにどんな結果になってもおかしくない貫禄の面々が揃い、ラウンドが進むにつれ、さらに高度なジャンプに果敢に挑む姿には驚かされた。最高得点を出したイェロにわずか2点差で及ばなかったトレバー、痛めた腰をものともせず挑んでついに破れた谷口、すでに結果ではなく姿勢に観客は動かされていた。

だからスーパーファイナルを制したニコラス・ミューラーが今大会最高得点をあげて最高のジャンプを見せて締めくくったことにも、守りに入ることなく最後まで攻めたイェロ・エッタラが失敗に終わったことにも、同じだけの最高の喝采が送られたのは言うまでもない。そしてその喝采は、全ての選手とトヨタ・ビッグエアー全体にも向けられていた。

トヨタ・ビッグエアーの模様は全国ネットでテレビ放送もされた。完璧な角度から隈無くジャンプを見ることができてそれはそれで見逃せないが、この緊張感や生の興奮は、当然この骨まで凍みる寒さや時間、人の波を感じてこそ得ることができるというものだ。彼らのジャンプを見て私も飛びたいッ!と言うのは、何も無謀にジャンプに挑戦したいというものではない。その表現する姿勢、挑戦する様子、かっこよさのこだわりを見た時、種類は違えど万人が飛べる方法があると感じ、そうでありたいと願ったのだった。

本会場は1972年に冬期オリンピックの開催になったスケートリンク場、札幌真駒内オープンスタジアム。今年は、同じく冬期オリンピックイヤーでもある。トリノで繰り広げられる熱いシーンも楽しみたい。

TOYOTA BIG AIR 2006
開催:2006年1月28日(土)
会場:札幌・真駒内オープンスタジアム
https://www.toyota-bigair.jp

Text: Yurie Hatano
Photos: Hiroshi Kotake

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