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スコープ・ロンドン 2005

HAPPENINGText: Sayaka Hirakawa

リージェンツ・パークを北の端まで歩くとロンドン最大の動物園、ロンドン動物園がある。園の中に入り、フラミンゴを右手に見ながら爬虫類館の前を通り、アクエリアムを過ぎると、ズー・アートフェアが開催されている。イギリスを拠点にし、かつ設立4年未満の若いアートギャラリーやグループのためのアートフェアである。

IBIDプロジェクトのリプレゼントするカーリー・ヤングの作品は人々を大いに楽しませているようだった。コールセンターで働いた彼自身の経験をインスピレーションに、それは成り立っている。

ラウンジタイプのソファーに座り、受話器をとる。それは目の前のフォトフレームに納められている写真の女性につながる。電話に出ると彼女は簡単な自己紹介をし、『それではオプションを選択してください。わたしのパーソナルバックグラウンドについて聞きたければ、1を、コールセンターでのワークエクスペリエンスを聞きたければ、2を、選んでください。』という。

1を選択すると、彼女の出身地や、学歴などを一通り聞かされた後、『わたしの経験について、得に何か知りたいことはある?』と質問される。何人かのオーディエンスを見ていると、ただ聞く人、笑いながら会話をしている人、巧に質問を投げかける人、など様々だ。

この手のコールセンタ−に実際電話をすると、まず音声ガイダンスに従い、意図する用件の担当部署につながるよう取りはからわれるのが常であるが、機械の音声から、実際のオペレーターにつながった後ですら、彼らは決まった解答をするよう訓練されており、オペレーターのアイデンティティやキャラクターといったものは、雇用者からもカスタマーからも否定される。カーリー・ヤングはそういったコミュニケーションのあり方に疑問を抱くようになったのだろうか。彼のオペレーターは、楽しげに彼女の個人情報を語り、私たちは、彼女の見物人になるか、友人になるかを選択することができるのだ。

システマチックな現代において、個人が否定され、一般化されてしまう様をコールセンタ−という特有の場所を通して表現したこの作品。実際、これくらいフレンドリーなオペレーターが対応してくれたなら、たとえそれがクレームの電話だったとしても、少しは気がおさまるのではないだろうか。各社のカスタマーサポートチームは、マニュアルを作成する以前に、彼の作品から学ぶべきものがあるかもしれない。

Scope London 2005
会期:2005年10月21日〜24日
会場:St Martins Lane Hotel
住所:45 St Martin’s Lane, London WC2N 4HX
TEL:+44 (0)20 7300 5500
https://www.scope-art.com

Zoo Art Fair 2005
会期:2005年10月20日〜24日
会場:London Zoo
住所:Regent’s Park, Outer Circle, London NW1 4RY
TEL:+44 (0)344 225 1826
https://www.zooartfair.com

Text: Sayaka Hirakawa
Photos: Sayaka Hirakawa

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