第5回 ブエノスアイレス・ファッション・ウィーク

HAPPENINGText: Gisella Lifchitz

ポストモダンのリビングスペースが、真っ白なキャットウォークそのもの。そこでは、誰でも気軽にドリンクを飲むことができ、同僚と一緒に談笑したり、雑誌を読んだりすることができる空間だ。マリア・シェルのコレクションのシンボル的な存在として「冬の誘惑」と名付けられたこのラウンジ。椅子には、大きくて赤いリンゴがあしらわれている。モデル達もそこで飲んだり、食べたり、おしゃべりを楽しんでいる人たちの一部。そんな感じなので、一般の私達は、どこをどう見ていいのかちょっと困惑してしまった。


Maria Cher

そしてそんな中、私がふと思い出したのが、私がまだ幼かった頃、母が愛読していた雑誌だ。どことなくナイーブな印象があり、幸せそうな人々をフィーチャーしていたその雑誌。服も紹介しているのだが、なぜだか遠慮がちな雰囲気があったのだ。ステージに目をやると、沢山の女性モデル達が大声で笑い合っているのが見えた。そしてそこには確実に、母の雑誌とは違う、ファッションを楽しむという要素があった気がした。そんなことを考えながら、リンゴを置く安全な場所を私は探していたのだった。


Maria Cher

ショーとショーの間は、誰にとっても他人に目を配ったり、あるいは自分のアピールに精を出していたようだ。オスカーやグラミー賞などでよく見かけるような、赤い絨毯が敷かれている場面では、誰もがゴシップを探し求めている様子。このショーの本来の目的は、どうやら完璧に忘れられてしまっているようだった。ショーはそっちのけで、ゴシップ探しに熱中しているかんじなのだ。ファッションショーの裏方はまるで、全ての物事を動かすエンジン状態。この「BAF」全体が、世界に向けたプレ・ショーの巨大版のような存在なのだ。しかし、どこのショーよりも内容が濃く、組織立てられていないのが、「BAF」なのだ。

イベントが終了した今。何だか、ほんの少しの間だけ私達に違う世界へと通じるシェルターを与えてくれた、ちょっとグラマラスな空間がなくなってしまったような気分。ファッション以外にこのイベントが残してくれたもの。それは、全ての物事が正しい方向に向かっているという確信だ。ショーが遅れたり、モデル同士の誤解が少なからずあったとしても、高まるファッション熱の中でこのショーを待つことに比べたら、そんなのは小さな問題なのではないのだろうか。今回で「BAF」は見納め。そうなってくると、次回はどんなイベントになるのかが気になるところ。次回も変わらず、ファッションなのだろうか? そうであることを、願わずにはいられない。

The 5th Buenos Aires Fashion Week
会期:2003年4月7日〜10日
住所:Rural Society, Buenos Aires, Argentina
info@bafweek.com
https://www.bafweek.com

Text: Gisella Lifchitz
Translation: Sachiko Kurashina
Photos: Gisella Lifchitz

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