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アートデモ 2003

HAPPENINGText: Tomohiro Okada

さて、今回のアートデモはこれらメディア芸術祭の舞台に踊り出たユニークなタレントだけでは無く、国内からのデモもあった。

実は順番の最初だったのは、バンドでありデジタルフィルムの制作やインタラクティブなウェブアートワークまで手がけるウイグルのリーダー、ギル久野であった。今はトヨタの「Bb」という車のCMソングを主に手がけ、くせのある遊び車としてのイメージづくりに大きく貢献している彼ら、結成はインターネットによるものであったという。バンドをしようというネットの呼びかけとやり取りで、顔をあわせること無く、日本、オーストラリア、アメリカからメンバーが揃って結成、そのまま音作りとプロモーションビデオまで作った。顔も十分にあわせていないし、一緒になることも少ないのだからと、最初のPVはフル3DCGアニメで作ってしまい、まだ始まったばかりの第2回目の文化庁メディア芸術祭で優秀賞までもらってしまったというおまけまで付いた。

今は、メンバーの変更もあり、インターナショナルに離れ離れであるのは変わらないが、実際に世界の何処かに集合してのバンド活動が主である。久野はロス生まれの日系三世で巨大広告代理店電通の社員であった経歴の持ち主。しかし、一橋大生の頃よりテクノミュージシャンであったマインドに逆らえず、脱サラしてアーティストになった。サラリーマンだったからこそ、仕事としてアーティストを考えることができるという久野、同時にサラリーマンであってもビジョンとストラテジーを持ち続けることができればプロのアーティストとして独立することはできるとデモを通じてエールを送った。

最後にデモに立ったのは、立体音楽のマエストロ、冨田勲が育成するアーティストたち。サラウンドが当たり前の音楽効果となった今、立体音楽を作り続けて、現在70歳台の冨田は世界の第一人者としてハリウッドでもマスターとしての存在である作曲家である。そのハリウッドでは、立体での作曲が映画音楽の必須条件として数多くの若い作曲家が凌ぎを削っている。しかし、日本では2チャンネルの音楽としての作曲がスタンダードであり続け、立体での作曲を身につけた作曲家は皆無で、冨田が孤高の地位なのである。これから立体音楽の時代になるのに、これでいいのかという思いが初めて冨田を教壇に立たせ、マンツーマンで8名の作曲家を育成しているのだ。その中で発表レベルに行き着いたと評価した4名、山口裕史、野尻修平、稲毛謙介、大嶋大輔が、初めて業界以外の人々に対して自身が作曲し、システムに打ち込んだ音楽を発表した。コンテンツといえば映像やインタラクティブに目が行き、それが主となる日本の今、音楽がコンテンツにとって従ではなく、ハリウッド映画の凄みと同じように対等なものであること、そのためのコラボレーションに向けたアーティスト自身によるパブリックな表現の実践がここで行われたのである。

文化庁メディア芸術祭という機会を生かして行われた、新たなインターナショナルなコミュニケーションの回路を作り出す実験。結果としては残念なこともあった。何とも、最後に全員が壇上に立ち、質問や意見を求めても何のレスポンスも無かったのである。デモの全員が参加した、その後の交流会では揃ってデモンストレーターを相手に口に泡を飛ばす程の語り合いであったにも関わらずなのにである。国内の若手による前回のアートデモでは、質問が長時間に渡り展開され、打ち切ったほどであったのに、それが無かったのはまさにメディアやテクノロジーでアートを作ってゆきたいという切実さを託しあうことができなかったよそよそしさがまだあるからに他ならなかった。その点で、主催者やデモを引き受けて立った欧州からの彼らが試みとして思い描いたものからしたら失敗だったであろう。もっと強いコミュニケーションで無いと開けない、だからこそワークショップだと示した和多利の見識にこそまさに一理あるかもしれない。

有難いものを見た、有難いものを聞けただけではなく、アーティストにとってもオーディエンスにとってもユースフルなアートから生まれる創造と問題解決のメルティングポットになるために、これからアートデモは東京からどのようにバージョンアップし、そしてどのように東京を創造して行くことになるのだろうか…。次の答えの準備は夏に向けて既に始まっている。

アートデモ 2003
開期:2003年2月28日
時間:17:00〜20:00
会場:東京都写真美術館1Fホール
住所:東京恵比寿ガーデンプレイス内
入場無料
主催:アートデモ03実行委員会
協賛:文化庁メディア芸術祭
https://coolstates.com/artdemo/

第6回 文化庁メディア芸術祭受賞作品展
開期:2003年2月28日〜3月9日
時間:10:00〜18:00(木・金曜日20:00まで)
会場:東京都写真美術館
入場無料
主催:文化庁メディア芸術祭実行委員会
contest@cgarts.or.jp
https://www.cgarts.or.jp/festival/

Text: Tomohiro Okada
Photos: Tomohiro Okada

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