アートデモ 2003

HAPPENINGText: Tomohiro Okada

ケルンに半年に一度のペースで全く異なるマシーンを作り続けるアーティストたちのグループがいる。そのマシーンはあまりにも奇想天外すぎるので、ビジネスがしたいと思っても刺激が強すぎて結局アートにしかならなくなるという悲哀を抱えている。同じくインタラクティブ部門で優秀賞を受賞した//////////fur////である。

//////////fur////が受賞したのは、ボール型のロボットが歌声に反応して歌い手に引き寄せられる「ヒズ・マスターズ・ヴォイス」という作品。彼らがアートデモに出したのはそれでは無くて、強烈なビデオイメージに引き寄せられる作品たちによるものであった。

タイトル名を隠した作品。ヘビメタをバックに重厚感のあるスチールの筺体による対戦型ゲーム機でのたうちまわる人々、「Get The Pain, PainStaion」(ペインステーション)。そう、ソニーの国日本、そして著作権を扱う文化庁で賞をもらっての来日ということでタイトル名を隠してみたらしい。このネーミング、ドイツではソニーからもクレームがついてそれがニュースになって世界を駆け巡ったいわくもある。

往年の名作ゲーム、ポンを楽しむこのマシーン、実は失点すると電気ショックに鉄の鞭、それに電熱攻撃が浴びせられる、ワールドフェイマスなテレビ番組「たけしのお笑いウルトラクイズ」を髣髴させる強烈さがある。ガマン比べの結果、先にマシーンから手を離したほうが負けという、昨年のアルス・エレクトロニカでは、クワクボリョウタに全治1週間間の怪我を手の甲に負わせたという大変デンジャラスなものなのだ。

次に紹介したのは、日韓ワールドカップに勝手に協賛した昨年の作品。プレイステーション2のUSBポートにユニットを接続、FIFAワールドカップオフィシャルサッカーゲームを起動、足にユニットを結ぶと、ゲーム上で転んだりファールをすると電磁コイルで足に強烈な刺激が襲う。その次は、サンドバックを叩くと打たれた音を発するもの。最新作は早くも今年のもの、ケルンの国際家具フェアに出展した、リモコン式チェーンソーロボットである「操作方法に慣れて、ボスの椅子の足を斬れ!」。

次から次へと繰り出される作品ビデオの出来は作品を取り巻く物語をうまく表した秀逸なもの。その上にこれらの作品が実際に物議を醸し出すほどに、彼ら自身の手で完動されるまでに高めた完成度の作品なのだ。このように大変な作品を間髪無く送り続けるので、そのデモのみに時間が過ぎ去り、秘密を解き明かせてくれるまでにはならなかった。

//////////fur////は、ケルンのメディアアート大学の院生と同年代の出身者(同大学の助手になったり、フリーの情報デザイナーになっていたりする)による4人のコアメンバーを中心とするユニット。平素は、共同で借りた、工房とオフィス、それに小さなショップ(今頃、この滞在のとき日本で仕入れた明和電機グッズなども販売中だろう)が一緒になった一軒家で活動している。

そのうちのリーダー格の2人、ローマン・キルシュナーとフォルカー・モラーヴェが来日、デモだけでなく出展したボールロボットの世話を焼いていた。その間に、彼らが訪問したのは原宿にあるファミリーで私有地に現代芸術美術館を建てて事業として経営を行っているワタリウム美術館。昨年はカールステン・ニコライが半年間にわたり個展を展開し、滞在したように、現代から未来に向けた様々なアーティストが歴史を残したミュージアム、そのカフェでキュレーターの和多利浩一はくすくす笑いながら次から次へと繰り出す作品のビデオに見入っていた。『おもしろいね。ちゃんと作っているんだ。こういうことは若い作家を目指す人に見せたいし、実感してもらいたいね』しかし『でも、まだ彼らは日本ではネームバリューがないから個展を開いてもうちでは成功できないんだよね』とのこと。『この前(筆者が)連れてきたジョシュア・デイビスもそうだけど、東京で若いアーティストたちにこの刺激や仕事の姿勢を伝えたい人たちなんだけど、海外から来てもらって簡単に滞在してもらうことが今のアートシステム者難しいよね。本当に難なくワークショップができるような仕組みができればいいのだけれどね』と和多利は語る。そう、そのような普通の交流ができないことに日欧の遠さがあるのだ。『何とかそれができるようなことを作って、彼らにいろいろ日本でも作ってもらおう』思い描いて憧れだった東京に滞在してもっと好きになった彼らも含め、その場にいた全員でそう言いながら、その場は希望をそれぞれの胸にしまい込むのであった。

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