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ピープルズ・ビューロー・トーキョー

PLACEText: Sachiko Kurashina

「The Peoples Bureau Tokyo」はエントランスのあるSHOP1と、別棟のSHOP2との2つの空間で構成されています。これまでの説明は主にSHOP1についてのものですが、すでにかなり長い話しになってしまったので、ここではSHOP2については省くことにしましょう。

ショップの建物も、昔の日本家屋そのままの原型をとどめているので、小さく天井も低いのですが、そこからもたらされるであろう「密閉感」や「窮屈感」などもまったく感じられませんでした。これらに関しても、何らかの工夫をされたと思うのですが。

その辺についてはまず「33hrjk(SHOP33原宿店)」から「The Peoples Bureau Tokyo」に至るまでの経緯と立地条件についてお話する必要がありますね。このショップは原宿・青山・渋谷といった商業地域の中間に取り残された低層住宅地の中に位置しています。大家さんは敷地内に木造平家建ての住宅と木造2階建ての貸家を所有しており、ショップではそのうち平家の一部の6帖間ほどのスペース(SHOP1)と貸家の1階の4帖半ほどのスペース(SHOP2)を借用しています。SHOP1とSHOP2を繋ぐ動線は2つの家の狭い隙間で、もちろん雨ざらし。また、SHOP1の屋根はとても低く、梁下で1800mm程度しかありません。ショップの立地条件としては極めて特殊な(と言うよりむしろ異常な)ものです。

「33hrjk」のインテリアデザインを手掛けることになった時、私たちにはこうした戦後住宅の化石のような場所にクラブウェアのセレクトショップが存在するという奇跡的な状況そのものが実に面白いと思えました。そこで私たちが唯一の目標としたのは、既存の余計なディテールを取り除き、シンプルな造作を綿密に配置し、空間構成をより明確にすることでした。SHOP1とSHOP2はそれぞれ白いペイントとOSBと呼ばれる安価な集成材によって内部を覆われ、ほぼ面対称の構成を持つ空間となりました。このようにベースとなった「33hrjk」がすでに十分に整理された空間であったことが「The Peoples Bureau Tokyo」の小さな店内に「密閉感」や「窮屈感」が感じられない最大の理由であると言えるでしょう。あらゆる箇所に歪みが生じた築40年以上の建物の中に新しい造作物を破綻無くインフィルするのはとても大変な作業でしたが、施工担当・木ごころの皆さんのおかげで無事実現することができました。

残念ながら「33hrjk」が完成した時点ではこうしたデザインは周囲にあまり理解されず、私たちはOSBの質感とその使用方法ばかりに注目が集まることに正直辟易していました。何しろ私たちがこの素材を使用した理由はそれが抜群にローコストだからであって、質感自体には全く何の思い入れも無かったのですから。そのためこのショップが「The Peoples Bureau Tokyo」へとリニューアルされることでOSBの質感が完全に消し去られ、空間の持つ体験性が強化されたことに私たちはとても満足しています。ここでの空間デザインはDRによるコンセプトを体現すると同時に、東京のこの場所にしか存在しない独特のアンビエンスをより一層際立たせるものとなったわけです。

建物の外壁も全て銀色ですよね。ショップは住宅街のど真ん中にあり、銀色の建物はそれだけでも異色の存在なのに、何故か妙に馴染んでいる印象を受けました。

実は私たちはエントランスにサインを取り付けたこと以外建物の外観には一切手を加えていないんです。壁がステンレス板に覆われていること以外にもこの建物の外観には意味不明で不思議な部分が沢山あるのですが、それらは全部大家さんであるイナバのおばあちゃんの仕業で、このショップができる以前からそこに存在したものです。風水が関係していると言う噂もありますが、果たしてどうなんでしょう?ともかくこのショップの佇まいにおばあちゃんのセンスが微妙な影響を及ぼしていることは間違いありません。それはそれで悪く無いと思いませんか?

プロジェクトの完成までには、どれぐらいの日数がかかりましたか。DRのアンダーソン氏とのやりとりは、主にメールなどで行っていたのでしょうか?

荒武さんから電話が来てアンダーソン氏をまじえた最初のミーティングがあったのが2002年の4月です。その後、基本的なデザインは6月までにほぼ完成していたのですが、ショップの営業上の様々な事情からオープンは10月4日にずれ込みました。結局トータルで6ヶ月近くかかったことになりますが、それでも工事に入るまでに準備しなくてはならないことが沢山あったため、スケジュール的にはほとんど余裕は無かったですね。

関係者間の連絡はほとんどメールで行われていました。しかし私たちからアンダーソン氏への伝達事項は全てSHOP33の荒武さんに一旦メールで伝え、英訳したものをアンダーソン氏にメールしていただいていました。一方アンダーソン氏からのメールは大変簡潔で、英語力の全く無い私たちにも十分そのまま理解できるものでした。

ショップに脚を運んだ際は、是非ここを見てほしい!という、おすすめのポイントなどはありますか?

フィッティングルームです。


Photo by Love the Life

お客さんにはどのようにこのショップを楽しんでほしいですか?

時間を置いて何度も足を運んでみて欲しいです。

今後の予定を教えてください。

10月末に住宅のインテリア改装プロジェクトが1件、11月頭に診療所の建築プロジェクトが1件完成しますが、その後はしばらく仕事をセーブして、その間に「under construction」(Love the Lifeのオフィス兼住居。9月に「teNeues Publishing」から出版された「Tokyo Houses」と言う本に掲載されているのでヨーロッパにお住まいの方はご覧になってみて下さい。)に再度手を入れてみるつもりです。ここのところあまりに忙しかったので、少しのんびりマイペースに過ごしたいです。


The Peoples Bureau For Consumer Information Tokyo
住所:東京都渋谷区神宮前5-18-8
TEL:03-5468-3133
http://www.shop33.com/thepeoplesbureau-jp/

Text: Sachiko Kurashina

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