とかち国際現代アート展「デメーテル」

HAPPENINGText: Sachiko Kurashina

目的地へ向かう電車の中、台風一過でその濃さを更に増した緑を眺めながら、私はこれから待ち受ける未知のアートの世界へと胸を踊らせていた。久し振りの遠出でもあるからだろか。そのアートイベント、デメーテルの会場がある北海道帯広市までの3時間弱の移動も、それ程長いものには感じられなかった。

「デメーテル」。誰もが聞き慣れない言葉だと思う。これはギリシア神話で登場する女神の名前で、農業、豊穣、そして子育てを象徴している。帯広市は北海道の東部に位置し、広大な十勝平野の下、120年前から様々な畜産物と農産物を生産してきた。現代アートを通じて、この十勝の大地独特の風土と歴史を見つめ直し、人と大地の共存を再考するというこのイベントの試みには、この女神の名前「デメーテル」はぴったりの名前だ。

実際、帯広駅に降り立った時点から、ある種の開放感を覚えた。道が広い、人が少ないといった視覚的なものはもちろん、私の事を知っている人が誰もいないという事実、そして思わず両手を広げて空を仰ぎたくなってしまうような、全てのものから解き放たれた感覚。そのメイン会場も「帯広競馬場」というだけで、青々とした芝が生い茂る広い空間を想像させ、更に期待が膨らんだ。アトリエで作品を制作し会場でそれらを展示するのが、いわゆる一般的な展覧会の形態だが、この野外で行われている国際現代アート展はひと味違う。アーティストが直接帯広に脚を運び、その土地を知り、そこでしか生み出すことのできない作品を制作。十勝という土地の記憶を掘り起こし、未来へとつなげる「サイトオリエンテッド・インスタレーション」という手法が導入されたイベント「デメーテル」。30℃の真夏日の日、小銭を握りしめて駅前から会場へ向かうバスに乗り込んだ。


Obihiro Lightmachine (Gangway), Wolfgang Winter and Berthold Horbelt (Germany)

土曜日の競馬場。赤鉛筆を耳にさし、競馬新聞を片手にしたおじさん達が集まるメインスタンドを抜けると、デメーテルの入り口を見つけることができた。そして最初に目に入って来たのが、ヴォルフガング・ヴィンダー&ベルトルト・ホルベルトの作品「帯広‐ライトマシーン」だ。


Obihiro Lightmachine (Gangway), Wolfgang Winter and Berthold Horbelt (Germany)

彼等は、プラスチックの瓶ケースを積み上げて建築構造物のような作品を制作することで知られているドイツ人ユニット。「帯広‐ライトマシーン」では、紙パック飲料の緑色のキャリーケースを素材として、光のトンネルが生み出されたが、遠くからではまさかそれがキャリーケースだとはわからない。ちょっとしたマットが敷かれてあるトンネルの中に入ってみると、意外にも涼しく、私も実際にトンネルの曲線に添って寝そべってみた。時折、厩舎特有の匂いが風に乗ってくる中、ちょっとした異空間を楽しむことができた。トンネルから抜け出す瞬間は、太陽の光がその強さを徐々に増し、キャリーケースの緑色も違った感じに見えた。

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