ネクスト 02

HAPPENINGText: Tomohiro Okada

メディアアートとしてのエクスペリメントを企業バリューの向上に結び付るカンパニーも登場し始めている。アクチャルなアーティストのアートデモの最後となった、チーム・フォトンがそれである。フォトンはユニークなミッションを持ったゲーム会社「殺さない、戦わないゲームを作る」である。そのコンセプトに共鳴し、集まったゲームクリエーターたちは建築を修めた修士であったり、アンビエントなクラブイベントでVJをするグラフィックデザイナーなど、他領域の異才たち。その発想を伝わる形でプレゼンテーションするために、アートプロジェクトを活かそうとしている。携帯電話を誰もが持つ国で編み出した、携帯電話の着信とその波形に応じて光る服という、ちょっとしたインスタレーションは彼らのアイディアを一つのかたちにしたケースに過ぎない。

ゲーム開発の途上で作り上げたインタラクションを一つのアートプロジェクトにして、アイディアやフォトンが持つクリエイティビティーを示すということもやってのける。このリズムエンジンという、ネット上でのプロジェクトは、仮想の宇宙空間を浮遊体験するアプリケーションをダウンロード、その空間上での浮遊体験の痕跡としてサウンドを残し、同じアプリケーションを用いて浮遊する他のプレーヤーと言語を介さずにサウンドをセッションすることでコミュニケーションをはかり、音を楽しむというサイバースペースである。自身が持つ創造力やリアリティーを伝達するフィールドとして、アートを選んだフォトンの戦略は、能力をゲームの世界だけでなく、メディア教育やデザインなど他の領域にまで知られるようになり、その表現と能力を応用するフィールドが確実に広がりつつあるのだ。

アートデモに参加したアーティストたち自身が最も注目したのは、いわゆるアーティストによるデモではなかった。その注目のデモは、最後に行われた後藤富雄によるデモである。後藤はNECに長年勤めて半導体エンジニア。そのエンジニアリングの経歴はそのまま日本のパソコンの歴史そのものであった。スーパーコンピュータの時代に、日本ではじめて工作好きが手に入れることができる価格のパソコンを遊撃的なプロジェクトで送り出し、その後、DOS時代に日本のほとんどのシェアを占めるパソコンの開発を指揮、更には世界ではじめてのCD-ROM搭載のゲーム機を送り出した、現役でありながら伝説となっているエンジニアだ。一方で、ものづくりの発想力の好奇心から現代芸術家とプライベートで親交を持ち、インゴ・ギュンターなどにその技術やアイディアを提供してきた、エンジニアリングによるアートのサポーターでもある。その後藤がNECを55歳で退職、フリーランスのエンジニアという、独立した新人としてデモを行ってくれたのだ。

NEC入社以来、身のまわりにあるテクノロジーの可能性を追い求め、そのアイディアと実行力で、プロジェクトを作り出してきた実績は、アーティストよりもときにはアーティスティックで、会社という組織の中にいても、どのような状態でも創造力が尽きなければ、自分の手でものを作り出し続けることができることを身をもって物語ることで、オーディエンスに自身でもできることはもっとあるのではないかというエンパワーメントを与えてくれた。

フリーになった今、NECという枠を超えて、日本やアメリカの様々なメーカーが持つテクノロジーを組み合わせることで、新しいプロダクトを作り出すことに最も注力しているという。ワンチップチューナーとマイクロハードディスク、そしてめがねに組み込める透過型ディスプレーで何ができるか?後藤の頭から今も溢れる創造力は、より自由に何か新しいものが生み出されようとしてしている。その想像力とエンジニアリングに対する卓越した理解にオーディエンスもアーティストも魅了された。一方で後藤は、新しい発想と創造に対してひたむきな意欲を持っている後進を支援してゆきたいと表明、ものづくりとダイバーシティのある創造的コミットメントを求めようとしているアーティストとの新しいコラボレーションの可能性を提案して締めくくるのであった。

テクノロジーそして動きや美学を絶え間なく融合し、創造力のサイクルをあげてゆくライブなメルティングポットとしてのムーブメントはこのようにささやかながらも、参加してくれた人たちの多くに何かを残してくれたことは確かであった。その証拠といってもいいだろうか、もう次のアートデモの準備が始まっている。

NEXT 02
日時:2002年5月2日
会場:東京都写真美術館
住所:東京都目黒区三田1丁目13−3 恵比寿ガーデンプレイス内
TEL:03-3280-0099
http://coolstates.com/artdemo/

Text: Tomohiro Okada
Photos: Tomohiro Okada

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