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ネクスト 02

HAPPENINGText: Tomohiro Okada

その新しいアートイベントに課した名は「アートデモ」、アーティストによるプロジェクトデモンストレーション、内容そのものの名前である。名前は分かり易くシンプルなほうがいい。ついでにいやらしくない名前の方が。東京では毎年、行政の支援のもとパフォーミング・アートのアーティストが、ホールの運営者に演目やカンパニーを売り込む「芸術見本市」という企画があり、定着している。芸術のほんの一領域なのに「芸術見本市」という名前がついてしまうのは、そのままパフォーミング・アートがこの国では力を持っているというあらわれだが、「アートデモ」はインフォメーション社会にもはやありながら、アート全体からみると、わざと見えないかのように避けられてきたかのような、メディア芸術に光をあて、そこで起きている新たなリアリティーを、まさにテクノロジー系にといっては最大の説得力を持った手段であり、オーディエンスにとっては発見と応用の可能性に頭を巡らせる期待感を高めるフォームである“デモンストレーション”いわゆるデモのかたちをとった、表現と創造と流通開発を一つのパッケージとした、新たなるアートイベントの形態であり、定着を求めるムーブメントの口火である。

最初のアートデモのプログラムをデザインするにあたって、念頭に置いたのはただアクチャルなものをフィーチャーするのではなく、実は既に存在している成功事例やそこから生まれるダイナミズム、そうであってもブレークスルーが必要となっているという一目で分かる先導ケースを示すことで、先があることを認識してもらうことであった。

アートデモの最初の演目は、キーノート・デモンストレーションとして、逸早く事例を積み重ね、常にブレークスルーにつとめているアーティストにその場を任せることにした。既に現代芸術家としてインターナショナルにそのキャラクターとともに知られている椿昇と、紅白歌合戦という日本で最も大きい年越しミュージックイベントで国民的演歌歌手である小林幸子の電飾衣装を長年手がけるなど巨大なキネティック・インスタレーションをエンタテインメントの領域にまで作り上げるアルチザンでもある森脇裕之である。昨年は日本最大の国際現代芸術展である横浜トリエンナーレの第一回を飾る巨大な飛蝗の造形物を高層ホテルの壁面にとまらせるなど、テクノロジーの限界をアートプロジェクトに求め続けてきた椿、そして工学技術を自分で組み立てて表現するアルチザンの不足を嘆きそれなら自身の手でと多摩美術大学でその育成に専念し始めた森脇、両者の結びつきはまさにメディア芸術もしくはサイエンスアートで、手が常に動き、実現化できるひとづくりの部分。

そこで、現在、2人が手がけているプロジェクトに巻き込んでいる学生に直接そのプロジェクトのプレゼンテーションをさせながら、それをフォローするかたちで2人がビジョンをかたるというデモが展開された。2人による、ひとづくりの最初の事例としているのは、大阪の万国博記念公園にある現代芸術学校のインターメディウム研究所。そこで、椿は学生とともに様々な電子制御ができるロボットをテスターにして、電子技術を使った表現方法を誰もが理解し、作り出すことができる、メディアアートの種ともいうべき手法の開発を行うことで、人づくりを展開している。森脇はまさにソニーパナソニックの商品開発研究所でのプロトタイプ作りと同じように、一から電子部品を組み立てながら新しい作品をどう開発して行くのかを提示、その理解と実践を促すためのモリワキットという作品工作キットを送り出している。デモでは、実際にそのキューブ状のロボット、ロボキューブを組み合わせ、プログラミングをしながら、最後には複数のロボットを多人数でいじることで音楽が形成されてゆく、ひとつの作品がたった1時間のデモのうちに組み上げられていった。このロボット、そして音楽を形成してゆくためのソフト、デモに登場した一つ一つのファクターがそれぞれもはや商品化されたり、実際に動き出しているという。作品ではなく、デモによって生まれる次の展開が既に2人にはあるのである。

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鈴木将弘
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