アルス・エレクトロニカ 2000

HAPPENINGText: Tomohiro Okada

次なるマシーンの開発に向けて目をつけたのは、アクティビズムの活動リスクの軽減。デモンストレーションの基礎であるスローガンのペインティング。実は公共物を破損する行為とされてしまい、逮捕や暴力を被るリスクと隣り合わせのもの。これを軽減するためのロボットを開発しようということで生まれたのが「グラフィティーライター」なのだ。「グラフィティーライター」はラジコンカー程の大きさに5本のスプレーを充填、時速15キロで事前に登録した文章を瞬く間にペインティングするもの。1998年以来、アメリカ、そしてヨーロッパ各地で200回のデモンストレーションを実施したが一度も捕まったことがないとの話。

この「グラフィティーライター」。「リトル・ブラザー」同様、ロボットの持つある種のコミュニケーション機能を果たす効果もあるという。それは、ロボットそのものの関心から、慣習が積極的にこの「遠隔軽犯罪体験」に楽しみながら参加するというもの。過去のデモンストレーションの多くの回で、関心を持った観衆が実際に「グラフィティーライター」を自発的に操縦してしまうというのだ。「今まで、道路作業員に、ホームレス、それに警察官に、ガールスカウトたちまで、男女問わず5歳から74歳までの人がこの行為に参加したのさ、こんなこと、普通の運動系のデモンストレーションには無いだろう」と同メンバーは語った。

PRIXの授賞式の現場でも「グラフィティーライター」は大活躍。 ORF(オーストリア公共放送)のスタジオ内からの生放送にもかかわらず、スタジオに一気に存亡の危機に立たされているウィーンの有力メディア文化センターである「パブリック・ネットベース」のURLをペインティング、支持を呼びかけた。そして、帰り際に放送局の廊下を見ると「誰も違法ではない」とドイツ語でペインティング。これも彼らの手によって、欧州の不法移民人権擁護運動のスローガンが塗られてしまったものであった。

インタラクティブ・アート部門は、インタラクティブ技術によって、新しいアートのかたちが生まれ、それがとても魅力的であることをかくに目に見えるかたちで見せてくれたのである。

テーマがテーマとして成立しなくなってきた片鱗は、昨年から見え始めてきた。そして、PRIX ARS ELECTRONICA で選ばれたものをすぐに理解し、想像することも難しくなってきた。

何かを具体的に期待したら、いい意味でも悪い意味でも、現地で打ち壊してくれることだらけであった今回のアルス・エレクトロニカ。しかし、これだけのものが毎年一箇所に集まることは世界広しといえどもここしかないのである。そしてちゃんと期待外の掘出物や失望を与えてくれる。行く前に何かを期待して、その通りになることはおもしろくないのだから、ただ、行くこと。それだけでいいのだ。

しかし、今まで最先端のテクノロジーといってきたものが当たり前になって私たちの生活に深く入り込んでしまった現在、アルス・エレクトロニカだけにそんな役割を任せていていいのだろうか。

『これはもう、新しいアイディアが(アルス・エレクトロニカには)必要だよね』と、常連のネットワーク・アーティスト ETOY のザイCEOが語るように、より多くの電子メディア芸術の魅力を生み出すためにも、もっともっとアイディアのインキュベーターが未だ人間には広い地球には必要みたいだ。

アルス・エレクトロニカ 2000
会期:2000年9月2日〜7日
会場:リンツ・オーストリア
http://www.aec.at/nextsex

Text: Tomohiro Okada
Photos: Tomohiro Okada

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