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アルス・エレクトロニカ 1999

HAPPENINGText: Tomohiro Okada

世界で最も権威のあるメディアアート賞の座にある、「Prix Ars Electronica」(アルス・エレクトロニカ賞)の選考にもまた、様々な新機軸が見られた。特に、デジタル・ミュージック部門におけるエイフェックス・ツインやネット部門におけるリナックスの産みの親で知られるライナス・トーバルズのゴールデン・ニカ(大賞)授与が、その中でも、際立ったケースということがいえるだろう。(他にもビジュアルエフェクト部門、コンピュータアニメーション部門、インタラクティブアート部門もある総合コンテストなのだがここでは新機軸が見られた2つの分野に焦点を置きたい)

今年からコンピュータ・ミュージック部門は、デジタル・ミュージック部門に名称を変更。コンピュータを用いた現代音楽的なものだけでなく、対象を拡大して、デジタルを用いたありとあらゆる音楽とそれによるメディア表現の中から選び出す試みへと変化を遂げた。

そのリニューアル最初のゴールデン・ニカは、エイフェックス・ツインことリチャード・ジェームスとクリス・カニンガムが受賞。受賞理由もプリ・アルス・エレクトロニカ初めてのミュージック・ビデオが評価されてのもの。評価対象となった、カニンガムが映像を手掛けた「Come to Daddy」のプロモーションビデオは、登場する子供たちが全てジェームスの顔というモンドな一作。引き続き、最新作「Windowlicker」では、これでもかと長いリムジンにビキニにグラマラスボディーの集団が搭乗。降りてみるとこれが全てジェームス顔とビデコラがより一層炸裂、エイフェックス・ツインによるえもいわれぬノイズテクノともにとどまることを知らないいい感じを醸し出している。

特別賞は、ニューヨーク在住のドラムミュージシャン、もりいくえが受賞、独自のドラムマシーンによるパフォーマンスの独創性が認められた。また、もう一組として、オーストリアのテクノレーベルである「MEGO」が獲得した。今までのような、実験的な電子音楽に対する視点を重視してきたこの部門の突然の変化に対して、賞の選択のプロセスにおいて、審査員団は芸術としての現代音楽をないがしろにし、実際には500以上にも及ぶ応募作品を耳に入れずに賞を決めたのではないがという憶測まで飛び出すような、強い抵抗が会期中に渡ってもたらされる事態にもなっていた。

一方、「Prix Ars Electronica」を通じて、今回最大の注目となったのが、ネット部門のゴールデン・ニカに、リナックスの生みの親、ライナス・トーバルズに授与されたこと。リナックスがアートなのかと物議を醸す点もあるが、リナックスによって示され、インターネットの世界に花開いたオープンソースのムーブメントそのものがアートであり、また、リナックスこそインターネットが生み出した最大の創作物(アート)であるという点で、新しい技術と未来の可能性をアートから見い出す、アルス・エレクトロニカにとって極めて賞に値するとの観点から、ゴールデン・ニカに輝いた。

特別賞には、インターネットを通じて、ミュージックコラボレーションをマルチプレイスで実現できる、レコーディングのグループウエアとでも言うべき、「レスロケット」が受賞。

受賞披露テレビ特番では、代表のウィリー・ヘンシャル自身がスタジオでギターを弾いている一方で、アメリカなど様々なところから他の音源が集められ、チャットによってミキシングやチューニングがまた別の場所で行われているののがデスクトップ上でリアルタイムで表示され、音が変化して行く姿を実現、スタジオ内を驚嘆の渦に置いた。なお、このレスロケットもフリーウエア。

また、もう一つの受賞プロジェクトととして、電子メールで未来へのメッセージを集め、それをCD-ROM化し、5万年後に地球に舞い戻る衛星に積み込んで打ち上げる「KEO」が選ばれた。

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