アルス・エレクトロニカ 1999

HAPPENINGText: Tomohiro Okada

まるでテーマパークといって、はしゃいだレビューをしてしまったが、少しまじめに今年のフェスティバルの傾向を最後に紹介してみよう。実は、今回のアルス・エレクトロニカ、20周年の節目であるとともに、20世紀最後のマイルストーン、そして、EUによるデジタル文化創造事業の本格化という、幾つもの転機と重なり合ったフェスティバルであった。そのため、今までのおさらいと、新趣向への挑戦の両方が随所に見られるものであった。

今までのおさらいは、初日と最終日にまるまる1日づつ行われた20周年記念シンポジウム。アルス・エレクトロニカを創って来たスタッフたちが勢揃いしてそれぞれが関わってきた瞬間を語り合ったシンポジウムで、まだ評価が定まっていないメディアアートのプロジェクトや作品をステージに上げてきた貢献と、その活動そのものを追うことから導き出された、ビデオアートに始まりネットプロジェクトへと続くメディアアート発展の20年を浮かび上がらせる試みを行った。

その一方で、この記念シンポジウムそのものの中にまず、新趣向への試みが仕組まれていた。最終日に行われた20年間を彩ってきたアーティストたちによるプロジェクトを紹介しあうシンポジウムの会場は「チルアウト・ルーム」と名づけられ、部屋の3方に巨大プロジェクターとビデオ/PC端末を中心としたサロンを設置、それぞれのサロンでリニアにトークを行い、相互に掛け合ったり、ハイパーテキスト的ともいえる柔軟な論議を展開するとともに、聴衆にとっても知的昂揚を保ちつつ、リラックスしながら参加できる場づくりを実際化したものであった。

シュトッカーによると、この「チルアウト・ルーム」のスタイルだと、衛星回線やネットワークを用いたテレカンファレンスであっても、より会場では一体感を味わえる論議が実現できるのではと期待、来年からのシンポジウムの手法そのものを変えて行きたい構想の中でのプロトタイプとなるものであるということだった。確かに、4時間以上にわたるノンストップのシンポジウムであったが、自由な格好で自由に動き回りながら、そして、他の人と話しながら、その場に立ち会えたことで、より一層、聞いたり思ったり考えたりし続けられるということで昂揚感が続き、楽しめるものであった。

メインのテーマシンポジウムである「ライフサイエンス」もまた、新機軸への挑戦。今まで、電子やメディアテクノロジーによる社会や人間の変化をアートを軸に注目してきたアルス・エレクトロニカであったが、ライフサイエンスによって、脱サイバーがはかられることになったのである。今までの成り立ちにこだわらず、人類や文化の行く末にとってきわめて重要な事象の理解と文化の構築を目指して行くその姿勢は、アートそのものの評価や価値づくりの役割ではない、文化の開拓者、未来へのナビゲーターとしてのアルス・エレクトロニカの立ち位置を今年という大きな節目で改めて明確化したものといえるだろう。

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